金井 勝プロフィール   ■ to Top page

1936年に神奈川県の農家の次男として生まれています。`60年に大映東京撮影所の撮影課に入り、高橋通夫、小林節雄らに師事~~ 64年の暮れに同社を退社してフリーの撮影技師となり、以降様々な分野の映像製作に携わります。更に68年には《かない勝丸プロダクション》を結成して翌年から隔年で『無人列島』、『GOOD-BYE』、『王国』の《微笑(わら)う銀河系・三部作》を自主製作・自主上映~~ インディーズ・シネマの草分け的存在となります。その後、TVドキュメンタリー番組等の演出をしながら映像による詩歌集・『時が乱吹く』などを発表し、最新作・『スーパードキュメンタリー 前衛仙術』03)は第50回オーバーハウゼン国際短編映画祭で国際批評家連盟賞を受賞~~ 更に第53回オーバーハウゼン映画祭では《金井 勝の回顧展》が開催されました。著書には「微笑う銀河系」(れんが書房新社)があり、また東京造形大学及びイメージフォーラム映像研究所等で後進の指導にあたってきました。
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これは<微笑う銀河系・三部作>の頃のもので
自作の製作・公開の後はカメラマンとして製作費を稼ぎ
次の作品へと突き進んでいきました
こちらは古稀を迎えましたので
竹馬の友である写真家・江成常夫氏に
撮って頂きました
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~ 自作解題 ~

無人列島 (「微笑う銀河系」三部作・人の巻) [Mujin retto] [The Desert Archipelago] ’69年 35mm モノクロ 55分
  これは自主製作による最初の監督作品で、スイスのニヨン国際(ドキュメンタリー)映画祭でグランプリを受賞~~ 国内外でかなりの反響を呼びました。
  粗筋としては、ひとりの不恰好な少年が尼僧たちに操られながら成長してゆくという至ってシンプルなものですが、そこにはぼく自身の体験とぼくが生きてきた背景(=戦後史)とが絡み合っており、また更にそこに様々な妄想が重なってきて出来上がった多面多層のオブジェ~~ 新しいシュール・リアリズム映画の誕生を目指していたという次第です!
  ぼくが小学三年生の八月十五日に《敗戦》となりますが、物心がついて以来《愛国心》を叩き込まれる教育だったので、《神国・ニッポン》の敗戦は余りにも衝撃的であり、ぼくの場合はそれが《精神的外傷(トラウマ)》となって(軽い)失語症という形で現れ、大変に悩まされました。
  その後、精神の救いを求めてのたうちまわった末に出会ったのがアルベール・カミユの実存主義~~ それを基に自分自身の実存主義を構築しますが、この『無人列島』の基盤となったのはその《金井勝の実存主義》です。
  (尚、この『無人列島』はヨーロッパの映画研究者:マックス・テシエ氏やトニー・レインズ氏などに高く評価されて欧州の各地で上映~~ エジンバラ国際映画祭 ’84の特集《日本映画の25年》でも69年度の代表作の一本に選ばれています。また近年国内でも那田尚史氏の力作・《日本映画の六〇年代と金井勝》(西嶋憲生[編] 「映像表現のオルタナティヴ」森話社)が発表され、《前衛映画》としての確たる位置を獲得したと思います。)
麗しき尼僧(河西都子)に鞭打たれながら
一歩いっぽ螺旋階段を登る
主人公・日出国
(串田和美)
尼僧院の地下室に
怪しげな吐息が広がった・・・・・
この麗しき尼僧は
自分流の正義を貫き縦横無尽~~
颯爽と、風を切って荒野を駆ける!

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GOOD-BYE (「微笑う銀河系」三部作・地の巻)  ’71年 16mm モノクロ&カラー 52分

  この映画の撮影は《よど号》のハイジャック事件があった1970年の夏でしたが、その頃の日本と韓国の関係は「一番近くて、一番遠い国」といわれていました。長い間植民地として支配されてきたことで、彼らは日本人に対して心を許すわけにはいかなかったろうし、こちらはこちらでそんな彼らを無視し、欧米の新しい文化と文明とに熱い視線を向けていたのです。
  しかし、日本人の祖先の多くは朝鮮半島からやってきており、ぼくの故里・神奈川県高座郡田名村(現・相模原市田名)の高座(コウザ)郡は、高句麗系渡来人によってつくられた高倉(コウクラ)郡がその最初なのです。またぼくの姓・金井も金鋳(カナイ)からきたもののようなので、古代の帰化人は鋳物においても高い技術を持っており、ぼくの祖先もその鋳物師だったのかも知れません。
  さて、そのようなことを背景にして展開するこの16ミリ映画・『GOOD-BYE』~~ 主人公は失語症の少年で、彼は何時もの小道で出会っていた《麗人》に導かれる形で血の流れを遡行します。するとそこは戒厳令下の韓国であり、物語はその緊張感からひとつのドラマでは納まり切れず、もうひとつのドラマがそこに重なってきて空前絶後の《ロード・ムービー》の誕生となります!
  当時、若者のリーダーであったのが大島渚監督で、「全く新しい内容のものを、全く新しい方法論で作らなければ映画として認めない!自己模倣も許さない~!!」という言葉がよく飛び出していました。その言葉に触発されて始まったのがこの《微笑う銀河系・三部作》~~ 前作とは内容に於いても方法論に於いても大いに異なるこの『GOODBYE』の誕生に、前作の支持者の多くは戸惑いを感じていたようでしたが、そこにはまた別の新しい支持者が現れ、学園祭などでの上映が急増したという訳です。)

砂丘の上で
麗人
(松井康子)は自分の時空に
主人公の少年
(むささび童子)を誘い込む
洞窟に引きずり込まれ
(山崎祐次)に犯される勝丸(金井勝)
と、天空から不気味な笑い声が聞こえてきた!
李舜臣将軍の像と並んで
海の彼方を見詰める
むささび童子金井勝山崎祐次
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王国 (「微笑う銀河系」三部作・天の巻) [Oukoku] [The Kingdom] ’73年 16mm カラー 80分

 1作・『無人列島』は、ぼくの体験や妄想とその背景とが絡み合って産み落とされた作品で《人の巻》~~ 2作・『GOODBYE』は、ぼくの遥かなるDNAの謎を究明しようとして〈血〉から〈地〉へと突き進んだ《地の巻》でした。
 そしてこの第3作・『王国』~~ 全ての神々は否定できても、唯一否定できない神がいて我々を支配しています。それは《時間》を掌る神で、その《時間の神》への挑戦状がこの『王国』であり、〈微笑う銀河系・三部作〉の掉尾を飾る《天の巻》なのです。
 流行詩人・五九勝丸
(ゴク カツマル)が編集者から暗に「時代に媚びた詩人」だと揶揄されて落ち込んでいると、その彼の周辺に《時間を盗もうと企むスリの集団》が現れ、暫らくすると今度は渡り鳥の研究から野鳥の中に潜む体内時計を究明して《時間からの開放》を模索している鳥博士が出現します。
 《永遠の詩人》を決意した五九は、その彼らから得た知識と技術とを駆使して八王子の裏町から遥かなるガラパゴスへと突き進み、更にその中天へと駆け昇ってゆきます~~ が、これはキッチュな冒険譚であると同時に、現代の新しい《神話》でもあるのです!
 さて、この『王国』のラストシーンですが~~ 詩人・五九の顔は夜空の星となって輝きだしますが、何とそこには『GOODBYE』の主人公・金井勝丸の顔があり、『無人列島』の主人公・日出国の顔もありました。更に視界を広げると、まだ目鼻のない顔が六つ浮かんでいます。
 それは、未来のぼくたちの作品に対する、熱い《意思表示》だったのです!

 (この『王国』もまた独特な個性の持ち主となりましたので、前二作とは異なる新しい支持者を獲得します。なかでも詩人・吉増剛造氏の存在は大きく、今でも図書館にゆけば《八王子にあった「王国」の入り口》(「朝の手紙」小沢書店)、《金井勝、一人の夢の王》(「緑の都市、かがやく銀」小沢書店)がご覧になれると思います。
 尚、朝日新聞社の「73回顧 ベスト5」でも上位にランクされ、「映画評論」のベスト・テンでは第9位~~ 海外でもマックス・テシエ氏がフランスの映画雑誌「ECRAN」などで絶賛~~ 彼はこの作品をカンヌ映画祭に持ち込んで自ら同時通訳をしながら上映してくれました~~ 感謝!)

鳥博士(大和屋 竺)はその腕を大きく拡げて
燃え盛る炎の海の上を翔ぶ!
大和屋ファン必見のそのパフォーマンス:-!!!!!)))))
目抜き平次(桑名平治)率いるスリ集団の
アジとは地蔵堂―― その地蔵尊の
脇侍たちは、何と色艶やかなマヌカンだった!
時を掌る神:クロノス(岩田信市)
対決する
主人公の詩人・五九勝丸
(むささび童子)
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時が乱吹く [Toki ga fubuku] [The Stormy Times] 1991年 16mm カラー 62分

五十歳を迎えようとした時、その心境をこれまでにない方法論を用いて表現したいと考えてスタートさせたのがこの《映像による詩歌集》~~ `87に短歌編・『夢走る』を、`88年に俳句編・『一本勝負の螽斯』を、そして`89年に詩篇・『ジョーの詩が聴える』を夫々の年のイメージフォーラム・フェスティバルで発表しています。
▼  短歌編・『夢走る』は時代劇による実験映画で、《恋と映画とに於ける老若対決》というのがその内容~~ ボレックス・カメラを駆使した《特殊撮影》が高く評価され、メルボルン映画祭では最優秀短編劇映画賞を受賞~~ 更にこれはヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを《巡回上映》しています。
▼  俳句編・『一本勝負の螽斯』は、400フィートのフィルムを装填したカメラがぼくの《日常と妄想》とを追って部屋々々を巡るという新手法の11分間映画~~ それは、前作・『夢走る』で力演してくれた城之内元晴氏(映像作家)の交通事故の悪夢から始まりますが、このワンショット・シネマにはビデオ作品では出せない《燻し銀》の輝きがあると自負しています。
▼  詩篇・『ジョーの詩が聴える』~~ 生前、城之内氏は何度か我が家を訪れており、ぼくの2本の映画(=『王国』と『夢走る』)のためにも熱演してくれました。ぼくには、その彼がいた場所があたかもぼくの脳細胞の延長上にある小さな部屋々々のように思える時があり、そこにまた彼の何もかもが《記憶》されいるような気がしてくるのでした。
  そしてその妄想は、やがて部屋から庭へと流れ出して、そこに彼の詩・『新宿ステーション』が圧倒的な存在感をもって巡り始めるのです~~!
▲ 以上の3本の短編映画はそれぞれが独立した形で活動をしていますが、故・城之内元晴氏への追悼作品として合体する時には、更に2景のドキュメンタリーが加わってこの『時が乱吹く』となるのです。
  16mmの追悼作品でしたが、雑誌・「シティロード」ではベストテン第2位 、「映画芸術」でも第11位。また海外の有名映画祭からもオファーがありましたが、そこにはひとつの大きな問題が立ちはだかっていました~~ それは『ジョーの詩が聴える』に於ける《詩》の膨大な言葉の量で、とても英訳での字幕は不可能だと思って断念しました。
 しかしこの度《第53回オーバーハウゼン国際短編映画祭》の《回顧展》に招待されることになり、この作品を除くわけにはゆきませんので、翻訳の藤岡朝子氏にご奮闘頂き見事に解決~~ 感謝!)

短歌編・『夢走る』
隠居(城之内元晴)の恋文を担いで東海道を
駆け抜けてきた五郎兵衛
(高橋孝英)だが
お伝さん(高橋葉子)に会った途端に・・・・・!
俳句編・『一本勝負の螽斯』
金井 勝を追ってきたカメラが捉えたのは
むなしき妄想だったのか?
はたまた狂おしき享楽だったのか?
詩篇・『ジョーの詩が聴える』
一輪車に乗って登場した
少女(亘 真紀)
天国からの郵便配達員であった!
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聖なる劇場 [Seinaru gekijo] [Holy Theater] 1998版~29分 ビデオ カラー

これは我が家の庭だけが《舞台》となる作品であり、これからも《進化してゆく作品》でもあります。
  この『聖なる劇場』の最初のバージョン(イメージフォーラム・フェスティバル89で公開)の時点で、『王国』という長編映画の出演者の内の4人が、既に若くて《鬼籍》に入っていました。
 さて、人間は二度死ぬといわれています。その一度目は物理的な死で、二度目の死は誰からも忘れさられた時にやってきて、それが本当の死~~ なのだそうですが、彼らはぼくの大切な同志であると同時に、みな素晴らしい才能の持ち主であり、特に《アバンギャルド》を語る時になくてはならぬ人たちなのです!
  前衛個人映像のパイオニア:城之内元晴――、ぼくたちの理解者で、理不尽にもサハリン上空に散った飲み屋のマスター:大阪 徳――、その独特な嗅覚で絶えず新しいアートを発掘し続けてきた評論家:佐藤重臣――、そして、そして、監督として脚本家として俳優として絶大なる存在感を示したダンディー:大和屋 竺――。
  その彼らの《存在》を何時までもこの世に留めようと考えてスタートさせたのがこの『聖なる劇場』ですが、その《前座》として小さな生き物たちのパフォーマンスがあり、その魅力的な瞬間をこれからも撮り続けてゆきたいので、それが《進化してゆく作品》の理由となっています。
  (映画祭では何所でもそうだと思いますが、《オーバーハウゼン映画祭》でも上映後に質問とトークの時間があります。そのトークでぼくが力説したのが《4人の出演者》のことでしたが、司会者のオラフ氏(=Olaf Moeller)は既に大和屋氏のことも城之内氏のことも良く知っていて大変に嬉しく思いました。しかし重臣氏についての知識は皆無だったので、「アンダーグラウンド映画を初めとし、世界の新しいアートを日本に紹介したのは彼であり、また国内でも若松孝二、大和屋、足立正生、小川紳介、高林陽一などの新人を発掘したのも重臣~~ 彼はただの批評家ではなく、ぼくたちにとって大切な《同志》であったのだ!」と、そう話したら彼も納得~~ 以後、遥かなるドイツの空の下で、ヤマトヤ、ジョウノウチ、ジュウシンの名が飛び交っていたのです!)

雑誌・「映画評論」に掲載された『王国』の脚本
そこから次々と現れる黄泉の国の住人たち
己を球体に包んだダンディな鳥博士・大和屋 竺の登場だ!
彼らの演技に呼応して
現われ出でたるは
金井勝丸―!
想像を絶するそのパフォーマンスを、篤とご覧あれ!
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スーパードキュメンタリー 前衛仙術 [Super Documentary:Zenei-senjutsu] [Super Documentary:The Avant-Garde Senjutsu] 2003~33分 ビデオ カラー

この『 前衛仙術』は、初公開の〈イメージフォーラム・フェスティバル`03〉でも話題を呼び、《第50回国際短編映画祭・オーバーハウゼン》では国際批評家連盟賞を受賞しています。
  誰しもが年をとると様々な機能が衰えてきますが、ぼくの中には「若い時の付録のような生き方は御免だ」という《別人=勝丸》が棲んでいます。彼は《前衛仙術》なるものを編出してその修業に明け暮れていましたが、そんな或日その《仙術》を使って二羽の山鳩を呼寄せて、目の前で営巣させたではありませんか~~!
  この山鳩の雛の育成などを含めて彼は様々な《奇跡》を起こしてゆきますが、それらは決して絵空事でも種と仕掛けのあるマジックでもありません。実際に目の前で展開してゆくのは摩訶不思議なる現実で、他に類例を見ない怪作にして快作也!
  (『前衛仙術』はドイツでも人気があり、街を歩いていると「ファンキー!ファンキー!」と良く声を掛けられました。確かに口当たりの良い作品なので何の抵抗もなく国境を超えられる《気安さ》がそこにあるのかも知れません。
  その一方で年輩の方のなかにはその《別人》の存在に共感を覚えてくれる方も多く、オーバーハウゼン映画祭の前・ディレクターであったアンゲラ・ハートさんもそのひとりでした。そして上映後の質問で「大変に面白い作品~~
ぼくはニューヨークから来たのですがこれをニューヨカーに見せるにはどうすれば良いのか?」といってくれた方も、ぼくと同年配の男性でした~~ 感謝。)

2日間に渡って強風が吹き荒れた為
恐れをなした雉鳩の親鳥たちは雛を見捨てようとする
そこで
勝丸は、その鳩の《親心》に気を吹き込むのだ!
勝丸の仙術よって
逞しく成長してゆく雉鳩の雛
こちらは植物の妖精(小野塚直美)
そのしなやかな肢体が
あなたの心を魅了する!

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