2015年

≪シュルレアリスム週間=日本≫で、フランス語版で四作品が上映:-))))))))))

フランス南西部の都市:ボルドーでの≪第2回 シュルレアリスム週間・日本≫に招待され行ってきました。

それは2015年5月5日から13日までの間に、映画、演劇、ダンス、音楽、レクチャー、インスタレーションなど様々なジャンルを横断させるフェスティバルで、今回は≪日本特集≫~~会場もボルドーとその周辺のペサック、スノン、ベーグルその他複数の会場で行われました。http://semainesurrealiste.tumblr.com/

さて、映画部門でのメイン・ゲストは、フランスの俳優であり監督でもあるジャン=ピエール・モッキーと金井勝~~ほぼこの十年間に私はドイツ、アメリカ、イギリス、ベルギーそしてスイスの映画祭等から招待されてきましたが、遂にシュルレアリスム発祥の地であるフランスからもお声が掛かって、喜びと不安を抱えながら5月6日の深夜に、ボルドー空港に降り立ちました:-)))))))))))))

     
三日月を思わせる
ガロンヌ川左岸の街
世界遺産「月の港」の顔である
水鏡のあるブルス広場 
かつてワイン商の邸宅だったアパルトマン
その居間で≪詩の朗読会≫の打合せ 

ボルドーの繁華街はガロンヌ川の左岸に位置し、川に沿って三日月形に発達した港湾都市~~現在もワインの生産地として有名ですが、かつては植民地貿易の中継地としても大いに繁栄し、その歴史的地区を対象に「月の港 ボルドー」として世界遺産に登録されています。

ボルドーはまた歴史的にも重要なところで、フランス革命の引き金となったジロンド派を生み出したり、三権分立を説いたモンテスキューや、思想家として後世の知識人に大きな影響を与えたモンテーニュを世に送り出したところでもあります。

さて、数年前から水が張られるようになり人気を博すブルス広場~~そこから歩いて20分ぐらいの所に私たち夫婦に提供されたアパルトマンがあり、スタッフ会議などにも使わせて頂きました。

実は、ボルドーで活躍する詩人:ガエタンさんの作品「第五の歌」の一章の日本語訳を私が朗読することになりましたが、ここでは英語がほとんど通じないためその打合せにも困窮~~が、そこにゴテイェ君という京都の大学に留学していたことのある青年が駆け付け、通訳をしてくれたので大いに助かったという次第です!

そして翌日の午後、その詩の朗読会はガロンヌ川下流にある工場跡地の「ガレージ・モデルヌ」で行われました。
大きな声で読んでくれといわれましたので、空き地に出て発声の稽古~~最初はちょっと呂律が回らず心配でしたが、まぁ何とか上手くゆきました!
しかしそれは、2人が両側からフレイム・インして、私が日本語訳の詩を朗読し、その後にガエタンさんが同じところをフランス語で朗読し、夫々がまたフレイム・アウトして終了~~これがどう繋がってゆくのか不明でしたが、フェスティバルのサイトの≪installation≫に載っていました!

またその夜は、その「ガレージ・モデルヌ」の近くにある劇場(Theatre du Pont Tournant)で、ユニークな角度から≪フクシマ≫の音を取材したラジオ番組を聴き、そして日本古来の楽器=横笛と尺八の演奏を交えながら≪フクシマ≫の惨事を熱演する青年のイベントを見ました。
さて、繰り返いになりますが、ここでは今でも殆どの人が英語を話しませんので、フェスティバルのディレクター;ダミアンさんの強い要望に従ってフランス語版での上映に踏み切ったことは正解でした!

~~と言う訳で、『無人列島』、『Good-bye』、『王国』、『時が乱吹く』の4作品のフランス語版がボルドーで作成され、そのうちの『無人列島』の翻訳は、静岡文化芸術大学のフランス語教授;石川清子さんが担当してくれました。

その石川さんと一緒に、このフェスティバルの映画部門の責任者=プログレさんとエスメラルダさんご夫妻のお宅に招待されました!

そこは辺りを葡萄畑に囲まれたボルドー郊外=ペサック地区の静かな住宅地~~小鳥が囀る庭でお二人による手作りのご馳走と、地元の名産のワインとを頂きながら素晴らしい時間を過ごさせて頂きました:-))))))))))

そこで石川さんに通訳をして貰いながら、この≪シュルレアリスム週間≫がどうして≪日本特集≫になったのか?~~などをご夫妻にお聞きしました。
石川さんについては、彼女が以前シュルレアリスムに関する単行本をフランスで出版していることを知り、その出版社から住所を教えて貰って交信が始まり、昨年彼女はボルドーを訪ねております。

私のことはスイスのローザンヌ・アンダーグラウンド映画祭のサイト等で知り、また映画研究者;マックス・テシエさんの共著:「LE CINEMA JAPONAIS」などを読んで興味を持ち、私がダミアンさんに送ったDVD-set:[The World of Kanai Katsu]を見て映画担当のご夫妻が決めたのだそうで、石川さんと私のことから≪日本特集≫が決定したようです!

『Good-bye』、『王国』そして『時が乱吹く』の翻訳は、ボルドー大学の先生などが担当~~その過程で
エスメラルダさんやプログレさんも関わっていたのでしょう~~会話の中に私の作品の(日本語の)台詞が次から次へと飛び出してきたのには吃驚させられました:-))))))))))

ともあれ、ご夫婦は映画のことを良くご存知で、特にプログレさんは原稿なども執筆している御仁~~私の作品の主力は40年以上前に生れた子供たちですが、多分大丈夫だと思いました:-))))))))))


     
 詩の朗読をする
ガエタンさんと私
左からエスメラルダさん、石川さん、
プログレさんと私
 
ペサックでの
私のポスター 
 
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そして5月9日の土曜日~~夕方の7時からボルドーの郊外にあるペサック地区の映画館(=cinema Jean Eustche)で、石川さんのレクチャー;「日本のシュルレアリスムとフランス」があり、それに続いて私の作品の上映とトークが行われました。

先ずエスメラルダさんによる紹介の後、石川さんはスライドを使いながら日本におけるシュルレアリスムの歴史などを流暢なフランス語で語りだします。

フランスの詩人=アンドレ・ブルトンが1924年に発表した<シュルレアリスム宣言>は、やがて新しい芸術運動となって日本にも飛び火し、詩人;滝口修造の活動などによって広がり~~文学、美術、デザイン、写真、映画などの若いアーティストに大きな影響を与えました。

石川さんは戦後に活躍するフランス文学者;渋澤龍彦の存在を大きく取り上げ、更に’60年代の学園闘争などの混乱の時代に誕生した新しい演劇=寺山修司の天井桟敷や唐十郎の状況劇場、そしてイラストレーターにして画家;横尾忠則の活動などを語ります。

スライドによる効果もあり、フランス語は全く分らない私でもかなり理解できたような気がしました:-))))))))))

     
ペサックの映画館
(cinema Jean Eustache)
 石川さんと
司会のエスメラルダさん
 スライドを使って語る石川さん
画像は横尾忠則のポスター


そして7時40分、いよいよ私の出番です!
私自身も初めて見るフランス語版の「無人列島」(1969)&「Good-bye」(1973)と、トークです!

こうした海外での上映で、重要なのは何と言っても<通訳>の問題です。
今度の場合ではその語学力だけではなく、シュルレアリスムのことや作品の時代背景などを知らないと、コミュニケーションが成り立たなくなってしまうこともあるからです!

これまでの経験から、ディレクターのダミアンさんにそのことを強くお願いしておきましたが、理想的な通訳=クリスチーヌ・レヴィさんが来てくれました!
彼女はボルドー大学の準教授で<日本研究博士>~~フランスのアートに関することはもとより日本のことも熟知している御仁で、観客とのやり取りなども実にスムーズに運びました:-))))))))))
     
上映前に私の紹介~
通訳のクリスチーヌさんとエスメラルダさん
 
上映の合間に自作について語り
質問に答える
 熱心に耳を傾けてくれる観客
ほぼ満席となりました!
先ず私は、自分の映画についての<考え方>などを話しました。
ATG作品やアメリカのアンダーグラウンド映画が刺激的だった時代でしたが、私の理想は<時空を超える作品>~~それには、第1にそれまでにない新しさを、第2に作者のアイデンティティを、第3に時代も国境も超える普遍性などが必要だと考えました。

1969年から隔年で制作した人の巻=「無人列島」、地の巻=「Good-bye」、天の巻=「王国」を<微笑う銀河系・三部作>として位置づけ、各作品に夫々の強い個性を持たせることをひとつの<戦略>とし、自己模倣も極力避けました!

それらの映画はみな私の子供たち~~しかし後で考えてみると、私は彼らの<母親>ではあったが<父親>ではないような気もしてきました。そこで父親は誰かと考えると、それは<その時代>~~その時代の欲求が<精子>となつて私の体内に忍び込んでいたような気もするのです!

というような訳で、今回ご覧いただく作品たちはもう私にも撮れません~~が、あの時代に生れた<極東のシュルレアリスム・シネマ>が40年余りの歳月を超えて、超現実主義芸術の発祥の国に招かれたことは頗る光栄~~と、大体そのようなことを話したような気がします!

ところで、今度の上映素材は<フランス語版>のDV-CAM~~客席の中にはその翻訳やデジタル技術などでボランティアとして参加してくれた方々の姿もありました!
また、国際結婚でここペサックに嫁いだ女性も~~彼女は映画好きな義父母から「日本人監督が来る」と聞かされ検索してみたところ、何と同じ相模原出身だと分って、友達も誘って来てくれたのだそうです:-))))))))))


     
 クリステーヌさんを初め<フランス語版>
の作成などに尽力して下さった方々
 このご夫妻も<フランス語版>の作成に
関わってくれた方
4年前にペザックに嫁いだ女性
(左から2人目)と、家族と友人


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5月11日の月曜日~~その夕べはボルドーの劇場(Theatre du Pont Tourant)で「時が乱吹く」(1991)と「王国」(1973)の順で上映、そして映画研究家;マックス・テシエさんを交えてのディスカッションがありました。

そのテシエさんですが、彼はイタリアで行われていた「ウーディネ極東映画祭」からこの日の為に駆け付けて来てくれました!
私が初めて彼に会ったのは、1970年だったと思いますが、当時の彼は新進気鋭の日本映画研究者~~ヨーロッパのシュルレアリスム作品とは違うところが評価され、フランスの映画雑誌;「ECRAN」などで紹介してくれたり、「王国」をカンヌ映画祭に持ち込んで上映してくれたこともありました:-))))))))))

しかしまだPCのない時代だったこともあり、段々と疎遠になっていましたが、今年の元旦に突然彼からe-mailが舞込んできて、三月には新宿ゴールデン街の<ラ・ジュテ>で再会~~その時に彼がこの<シュルレアリスム週間>にゲストとして招かれていることを知らされました:-))))))))))


     
 テシエさんと
ボルドーの繁華街で
エスメラルダさんと石川さんが加わって
上映会の打合せ
上映前の
関係者舞台挨拶


そして、8時に始まったボルドーでのイベント~~映画のことなら何でもご存知のテシエさんと、この日も通訳は<日本研究博士>のクリスチーヌさん~~本当に贅沢な上映会となりました!

さて、<微笑う銀河系・三部作>を完成したころから、ハリウッド映画が復活の兆しを見せ、やがて日本にも<メジャーエンターテイメント時代>が到来しました!
低予算の前衛的作品は相手にされなくなってきたので<自主制作>は一休みして、私は主にTVドキュメンタリー映画のディレクターをしていました~~が、その編集スタジオのスタッフなどから近い将来にはフィルムはなくなり、やがてはビデオも<デジタル>になることを知らされました!

そのデジタル技術を使えばフィルムでは考えられない凄い特殊撮影が可能になると聞かされ、それなら逆にアマチュア用のカメラ=ボレックスを駆使して手作りの特殊撮影で挑戦してやろうと、職場の仲間と一緒に撮ったのが、このオムニバス作品「時が乱吹く」の中の最初の短編;「夢走る」(1978)でした!

ストリーの時代背景を江戸時代にして、飛脚が広重の浮世絵の中を走るこの作品~~ボルドーにもこの手作りの映画をとても気に入ってくれた観客がいました!
彼は、パリの美術館で北斎の浮世絵を見て感動したそうですが、「広重もいいですね、その浮世絵の中を走る飛脚も魅力的~~忘れられない映画になりそうだ!」と言ってくれました:-))))))))))

また、その人から「ジョーの詩が聴える」(1989)の庭に流れる城之内元晴の詩についても尋ねられました。そのダダイズムの詩が耳に残っいるそうで「ステイション、ステーション~~」と、目を輝かせながら口遊んでいました:-)))))))))


     
質問をする観客   通訳をするクリステーヌさんとテシエさん 街外れにある劇場でしたが、ほぼ満席 

そして、<微笑う銀河系・三部作>の掉尾を飾る「王国」です。
何せこの作品は<天の巻>なので思い切って大胆な冒険をしました。若い流行詩人が一風変わったスリ集団の<技術>と、渡り鳥の体内時計を研究する鳥博士の<科学的な知識>を、弁証法的に使って<時間を掌る神>に挑むという空前絶後のドラマです!

その大胆な構造を逸早く認めてくれたのが若き日のテシエさんでした!
そんな彼だからこそ、観客の質問の中にあった私の知らない映画の制作年度なども直ぐに訂正~~大いに助かりました!

また観客席から、「このような変わった映画に制作費を出してくれた人がいたのか?」という質問もありました。
「作者が本当に撮りたい作品に注文なしで金を出してくれる人はいませんよ。だからCMなどを含めて、様々な分野の映像制作に携わって自ら資金を作った」と答えました!

2本の上映時間だけでも2時間半あり、トークや質問を重ねているうちに時計の針は疾うに12時を回っていました!

上映会が終了すると、ひとりの青年が近づいてきて、「最近のゴダールも、貴方の作品のように自由に作っていますよ!」といって手渡されたのが、2枚のDVD~~少し話をしたかったのですが、友達の車が出てしまうからといって駆け出して行きました:-))))))))))
※ 右の写真が青年から手渡されたゴダールのDVD

また通訳をしてくれたゴディエさんは、映画を観る前から<微笑う銀河系>という意味が気になっていたのだそうですが、「王国」を見て分かったと、嬉しそうに言ってくれました:-))))))))))


ここボルドーの会場にも、この<金井勝特集>を支えてくれた人たちも来てくれました。
私たちを宿泊させてくれたアパルトマンのオーナーのエリックさんは、この<シュルレアリスム週間>に、彼の作品も発表しています。

そして一番お世話になったのは、映画部門の責任者=エスメラルダさんとプログレさんのカップル~~5月5日の深夜にボルドー空港で出迎えてくれたのもご夫妻でしたし、ご自宅にも招待して頂きました。
   そしてこの日も、日付が替わってから一緒に遅い夕食をとり、私たちをアパルトマンに送ってくれたのが2時過ぎ!
       更にご夫妻は車で45分~~ペサックのご自宅に戻り、そして6時45分にはアパルトマンに迎えに来てくれたのです!
           こうしたご夫妻のご尽力に支えられて、私たちは無事にボルドー空港から帰路に着けたという次第です:-)))))))))


 
 
 アパルトマンのオーナー家族  映像編集で貢献してくれた技術者  左の男女は翻訳で参加
     
サブ 通訳のゴディエさん  映画担当のエスメラルダさん  映画担当のプログレスさん



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