パスカル=アレックス・ヴァンサン監修

『愛蔵版 日本映画の黄金時代 1935−1975』
(日本映画監督事典とDVD6枚)

 

金井勝(KANAI Katsu1936年生まれ
 インディペンダント中のインディペンダント。奔放な夢幻性に彩られた不可思議な映画を撮っている。
 1936年、神奈川県生まれ。金井勝は60年代終りを飾る最もユニークな映像作家の一人。足立正生、城之内元晴らと同じく日本大学芸術学部出身。卒業後、大映に入社。その後、フリーランサーとして主にテレビ番組制作に携わる。1968年に独立して「かない勝丸プロダクション」を起ち上げ、金井独自の個性溢れる作品を撮っている。
 1969年『無人列島』。55分の本作品は日本の現代史と金井個人の妄想を織りまぜ、エロチシズムをまじえたシュルレアリスム風の一篇の長大な詩。サディックな尼僧が集まる修道院から一人の青年が脱走する。青年は一人の尼僧にレイプされ、子どもが生まれる。その子どもは彼の背中に異形のコブとなって成長して彼と同じくらい大きくなり、まるでシャム双生児のよう。どうにか厄介払いをしなくてはならない。映像は地獄のような世界を表象するヒエロニムス・ボスの絵画に夢のようなイマージュをオーバーラップさせ、アメリカン・カントリー音楽も含んだ音のコラージュを混ぜ合わせる。心情を表すさまざまなイマージュのなかに、男の顔が太陽に取って変わったり、尼僧が機関銃をもったり、同じへその緒でつながった乳児の格好をした男たちが行進するシーンが興味深い。社会的、政治的なメタファーは至る所に見出されるが、金井は夢幻とファンタスムに溢れる独自の宇宙を創ることにより専心し、以降の作品ではさらにその傾向が強まる。
 二年後の1971年、『GOOD-BYE』は日本のルーツ、そして恐らく金井自身のルーツでもあろう韓国を舞台にする。自閉気味の主人公の若い男は、海にたどり着くと熟女が彼におそいかかり、二人は砂丘をころげまわり、海にのみこまれる。主人公が目を覚ますとそこは韓国の海岸だった。撮影はアドリブと韓国の日常生活の情景を撮ったものを混ぜ、朴正煕(ボク・セイキ、パク・チョンヒ)政権の戒厳下、許可なしで行なわれたと思われる。物語の途中で、主人公はカメラに向かって話し、主役は自分のルーツを探す金井自身になる。突如、スパイ映画調になり、登場人物たちは監督の父の命を受けたスーツ姿の謎の男に追跡される立場になる。
 6070年代金井の三部作最後を飾るのは1973年の『王国』。不条理な世界に最も深く入り込んだ作品である。一人の詩人が財布を盗まれ、元のままの財布を見つけるが、なかにあった札の肖像の目が切り抜かれている。犯人を捜すうちに、時を司る神クロノスから時間を盗むことだけを目的とする奇妙な秘密窃盗グループを発見する。ユーモアを満載し、とりわけ鳥類学に取り憑かれた博士のキャラクターを介して、作品はグロテスクと異様なものをカラーで表現していく。最後に主人公は予期せぬ道をたどって神々の宿る王国へとたどり着くのだ。
 独立プロにはハンディがつきものである。三部作以降の金井の制作スピードは少し鈍る。80年代終りに3作の短編。この「映像による詩歌集」はカラー作品で、協力者で友人でもあった城之内の死が色濃くあらわれているが、金井はこれらに作品を追加し、1991年に『時が乱吹く』として城之内を追悼している。1998年『聖なる劇場』でも、故人となったかつての金井の協力者を追悼する。2003年『スーパードキュメンタリー前衛仙術』では詩的で魔術的な新しい仙術を開発し、過ぎ行く時間の宿命に抗する姿勢を示した。
(執筆:オリビエ・マロスOlivier Malosse 日本語翻訳家。リヨン第3大学で日本映画の博士論文準備中)

翻訳:石川清子 静岡文化芸術大学教授 (フランス現代文学専攻)

著書に、Paris dans quatre textes narratifs du surréalismeAragon, Breton, Desnos, Soupault (1998, L'Harmattan)

訳書に、アシア・ジェバール『愛、ファンタジア』(2011、みすず書房)、レイモン・クノー『イカロスの飛行』(2012、水声社)など


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