オーバーハウゼン国際短編映画祭で
《金井 勝の回顧展= Profiles》・・・其のT (2007.6.26)

53年の歴史を持つ名門・オーバーハウゼン国際短編映画祭〜〜 その《回顧展=Profiles》 の四人衆のひとりに選ばれましたので、長編作品・『王国』を除く全作品を抱えて行ってきました。
また、その《回顧展》の繋がりで(隣の大都市)ケルンにある《日本文化会館》でもレクチャーと3日間にわたる上映会が開催〜〜 それらのことは、これからのぼくにとって大きな励みとなりますので、大いに感謝 !:‐))))))))))
映画祭の開会式を前にした
オーバーハウゼンの街
ケルンにある《日本文化会館》
     〜〜 左のドアにチラシが見えます
そもそもの始まりは、去年の秋口にドイツ滞在の映像作家・中沢あきさんからきた一通のメールでした。
それには、「〜〜 実はオーバーハウゼン映画祭から金井さんへの伝言を預かっております。映画祭事務局が、次回の映画祭の為に金井さんのプロフィールを頂きたいということで〜〜」というものだったのです。
映画祭事務局としては、映画祭にある〈データベース〉からこちらの〈電話&FAX番号〉に掛けたり、〈メール・アドレス〉にアクセスしたりしたそうですが、それらの全てが駄目だったので、中沢さんへ連絡がいったということのようです。
〈電話&FAX番号〉に関しては、向こうの掛け方のミスだったと思いますが、〈メール・アドレス〉については心当たりがありました。
HPにe-mailのアドレスを載せていた関係で、3年ぐらい前から迷惑メールが急増して1日あたり百通以上〜〜 ちょっと旅行などで家を空けたりしてると、何とその数、千通を優に超えてしまうという有様・・・・・!(笑)
そこでプロバイダーの〈迷惑メールフィルター〉で濾過し、更にぼく自身も〈送信者を禁止する〉で懸命の防衛〜〜 その甲斐あって迷惑メールは激減しました................ が、その副作用としてこうした大切なメールがカットされていたんですね・・・・:)−!!!!!!!!!!
ともあれ、手元にあった簡単な〈プロフィール〉を中沢さん経由で送りましたが、この時点ではそのことが何を意味しているのかは全く分かりませんでした。
そんなわけでしたのでオーバーハウゼンのことは日々に薄れてゆきましたが、不快な痼(しこり)のように気になってきたのが〈メール・アドレス〉のことでした。
このまま放って置くわけにもいきませんので、プロバイダーと相談をして新しいアドレスを増設〜〜 そのことを一応映画祭当局には知らせておきました。
が、1週間ばかり経ったある日〜〜 そのニュー・アドレスに何と映画祭・ディレクター Dr.Lars Henric Gass から〈回顧展〉への出品依頼状が舞い込んできたのです ―:!!!!!)))))))))))
ぼく自身、やはり何かを感じていたのでしょうか〜〜 その少し前から(50年振りに)英語の勉強を始めていたし、ぼくの全作品の〈英語版〉DVDの作製も考えていて、その時既に藤岡朝子さん(山形国際ドキュメンタリー映画祭・キュレィターの)に翻訳をお願いしていたのでした。
一方、オーバーハウゼン映画祭でのぼくの担当はOlaf Moeller氏〜〜 その彼と最初に会ったのは『スーパードキュメンタリー 前衛仙術』がメイン・コンペにノミネートされた第50回映画祭の時でした。
彼は日本映画に精通した研究者で、その時は山田勇男監督の〈回顧展〉を担当〜〜 その巨きな体躯を揺らしながら山田シネマへの熱い思いを語っていたのが印象的でした。
さて、4月27日〜〜 遂に出発の時が来ました。
オーバーハウゼン映画祭の〈問題点〉はその会期が日本の〈ゴールデン・ウイーク〉と重なるというところで、ご存知のようにその時期の航空運賃はべらぼうに高いのです :−!!!!!
そこで妻と相談〜〜 今年度の映画祭は5月3日から8日まででしたが、安いチケットを取って貰って早めに出発したというわけです。
航空会社はKLMオランダ航空―― 。
アムステルダムで乗り換えて、ドイツのジュッセルドルフへ向けて11:00 pmに出発〜〜 という筈だったのですが、50分の遅れのテーク・オフとなり、ぼくの心は穏やかではなくなりました〜〜 !
〜〜 というのは、映画祭で上映するフィルム&ビデオを「機内手荷物で持っていく」と(映画祭)事務局に申し出たところ、メイン・スタッフのひとりCarsten Spioher氏が、「それなら空港にそのフィルムを受け取りに行く」〜〜 と言ってきてくれていたのです。
不安を抱えたまま深夜の空港に降り立つと・・・・・ 人懐こい顔の中年男が手を振りながら近づいてきました。勿論それがカースチン氏(=Carsten)であります :-))))))))))
彼の人柄のお陰でぼくたちは直ぐに打ち解け、彼の車で妻がインターネットで予約したホテルへと向かいます〜〜 が、それが目立たない小さなホテルだったので見つけ出すのにひどく手間取り、(ホテルに)いたのは2時を回っていました。
ともあれ、そのホテルで彼から手渡されたのが刷り上ったばかりだという映画祭の《カタログ》〜〜 彼はその頁を捲りながら、「オラフ(=Olaf)が頑張った―― !」と、やや興奮気味な表情で言いました。
「Funky ! Funky ! Avant-Gard Magic = Total Eiga Geijutsu. Thank You」〜〜と、のりのりの見出しで始まるその(ぼくに関する)文章は、何と7頁に渡って記載されていたのです ― :))))))))))
第53回 オーバーハウゼン映画祭の
《カタログ》の表紙
《カタログ》の
《回顧展四人衆》の章の中から
ぼくに関する最後の頁
photo- Enari Tsuneo
ジュッセルドルフで1泊した後
ぼくたちはベルギーとオランダの美術館を巡って
5月3日にオーバーハウゼンに入ります。

次回はいよいよ映画祭の《本番》!
そこで観た様々な作品と、そこで出会った人たち〜〜
作家、スタッフ、批評家、研究者たちを綴ってゆきますので、宜しく―― !

《金井 勝の回顧展= Profiles》・・・其のU (2007.7.31) 

ベルギーとオランダを旅してからオーバーハウゼンに入りますが、その間ずっと晴天が続き、これまでに味わったことのないような〈爽快さ〉を全身で浴びました :-)))))))))) 来る日も来る日も雲ひとつない青空に、来る日も来る日も現れるのが飛行機雲〜〜 驚くべきはその数の多さで、紺碧の空をキャンバスにして、飛行機たちは〈白色〉の絵筆を縦横無尽に走らせます。
ヨーロッパの空には飛行機雲がいっぱい〜〜
この画面の中にも4つ見られます :-
!!!!!)))))
偶然か?必然か?第50回と同じ顔触れ
左からドイツ滞在のキュレィター・町口さん、映画研究者・オラフ氏、
SAPPOROショートフェストの麻生氏、そして山田監督とぼく
その空を見上げていると、昨年の秋に新橋のビクター・ビルで観た中沢あきさん(前出のドイツ滞在の映像作家)のビデオ作品・『願いをひく / Drawing wishes』がそこに重なってきました。
それは彼女が(日本の)友人と国際電話をしていると、大きなガラス窓を通して見える青空に飛行機雲が現われ、段々と数を増して、やがて超現実的な感覚へと発展してゆく短編〜〜 ドイツに来て、その異常ともいえる飛行機雲の多さに〈創作意欲〉を掻き立てられて産み落とした、とてもユニークな〈傑作〉です。
この『願いをひく』は、今年になってドイツの短編映画祭で受賞した後、ポーランドのメディア・アート・フェスティバルではグランプリを受賞〜〜 更にベルリン国際映画祭やトルコのアンカラ国際映画祭などで《正式招待》作品となっています:-!!!!!!!!!!
彼女には(今回もそうですが)、第50回の時にもお世話になっており、ぼくにとって掛替えのない友人ですので心底から喜んでおります:-))))))))))
さて今回のオープニング・セレモニーですが、郊外に聳え立つ(元・ガス工場だったという)円筒形のあの巨大ホールではなかったのが些か残念でしたが〜〜 まぁ、あの時は記念すべき50回だったので特別だったのかも知れませんね。
今年は映画祭3会場の中で1番大きなLichtburgで行なわれ、映画祭ディレクターのガス氏などの挨拶の後に5本の作品が上映されました。
それ等は流石に〈オープニング上映作品〉だけあってみな魅力的でしたが、特にロシアのHerz
Frank監督作品・『Ten Minutes Older』(’78年度作品)〜〜 これは〈35ミリのノーカット10分映画〉で、衝撃を受けました。
それは劇場の一隅に3歳児たちを招いて撮影〜〜 生まれて始めて観る舞台のパフォーマンス(その舞台も音声もないので、それがどういうものだったか不明〜〜)に反応するその子供たちの〈表情だけ〉を捉えてゆくという、前代未聞の実験的なドキュメンタリーだったのです!
ある瞬間は喜び、次の瞬間は不安になり、そして惹き付けられてゆくその表情の変化〜〜 作者のコメントには、「彼(中心となった子供)の顔は人生で予想される全てを反映しているようだ〜〜」とありましたが、ともあれ子供たちの顔から顔へとわたりゆくカメラが実に見事で、そのモノクロームの〈黒の締り〉は絶品〜〜 もう日本では不可能だと思えるほどの〈現像力〉でした:-))))))))))
今年の日本人作家のノミネート作品は、インターナショナル・コンペティションに山田勇男さんFragility島田清夏さんの『はる』の2作、他に〈チルドレン&ユース・コンペティション〉で、ハシモト ダイスケさんと、エチゴヤ ミユキさん、ミヤハラ ユウコさんの作品がノミネートされていました。(この後者の作家たちとは会えませんでしたので、3名とも映画祭には来ていなかったのかも知れません)
山田さんのその作品タイトル= 『Fragility (=フラジリティ)』とは、〈こわれやすさ、もろさ〉とかいう意味だそうで、セラー服に身を包んだ中性的な少年が、何かを探し求めているかのように人気のない街を彷徨〜〜 その少年の顔に時々ダブって挿入される花火の〈か細い火の筋〉が 山田さんならではの世界を鮮明に〈表出〉させておりました。
島田さんの『はる』とは祖母の名前であり、その百歳に近い祖母の日常の〈努力〉と、その〈息遣い〉とを綴った作品〜〜 両作品共に日本人ならではの〈映像世界〉があり、それが高い評価に繋がっていたようです。
この〈インターナショナル・コンペ〉は、全世界から寄せられた数千作の中から選ばれた強(したた)かな64本だけに、夫々がみな〈強い個性の持主〉〜〜 そこでその幾つかを紹介させて頂きます。
グランプリを受賞したのは、ロシアのPavel Medvedev『On the Third Planet from the Sun』〜〜 これは「太陽からの第3番目の惑星で」〜〜 ということですので水星−金星−地球〜〜つまり〈地球上でのこと〉を指しています。
シベリヤのツンドラ地帯でロケットの残骸を回収している(数人による)作業風景から始まりますが、それは〈水素爆弾〉の実験から45年が経った後の作業だそうで、当然そこには人間のそして国家の〈愚かさ〉が無言の中に炙り出されてきます。
さて問題は、その黙々と進められる作業風景に、旅をする〈民間人の一団〉が並行する形で入り込んできたことです。
襲い掛かってくる蚊の襲撃を避けながら旅をする彼らがどのような集団であり、この作品の中で何故それが必要なのか〜〜 残念ながらぼくには理解出来ませんでしたが、或いはそれは歴史上の、または宗教上の問題と絡んでいるのかも知れませんね・・・・・ ?
ベトナムのHa Phong Nguyen監督作品・『The Tettace Die Terrasse』〜〜 これも受賞作のひとつとなりましたが、心に染みる作品でした。
その登場人物は、老人とその息子だけ〜〜 屋根に上ってテレビ・アンテナの〈方向調整〉を行なっている息子が、ベランダにいる父親に向かって(居間にあるテレビの)画像の映り具合を聞きだそうとしますが、父親は亡妻が残した〈息子が子供だった頃の日記〉に集中していて「あの鳥は何ていう鳥?」を繰り返しています。
近くの庭木に現れたのは鸚鵡でしたが、その日記の中でも幼い時の息子が「あの鳥は何という鳥?」と何度も繰り返して訊いていたとありました〜〜 。
この時を超えた〈鸚鵡〉の使い方に作家の力量を感じましたし、更に夢うつつの中で椅子から転げ落ちたのでしょう、床に息絶えた老父の姿を捉えるラスト・シーンは秀逸でした :-!!!!!)))))
イギリスのDaniel Mulloyの作品・『Dad』〜〜 これも受賞作のひとつに入っていたと思いますが、今までにぼくが観たことのない驚くべき作品でした。
どう見ても共に70〜 80歳だろうと思える老夫婦のセックス・シーンからそれは始まりましたが、隣の部屋からこの様子を伺っていたのが、何と頭の禿げた40〜50歳の息子だったのです :-!!!!!!!!!!!!!
それとは対照的な作品が、ロシアのVictor Alimpiev監督作品・『My Breath』〜〜 これは全編ふたりの少女のデュエットだけの作品でしたが、その透明感のある音声と、その清潔感に溢れた容貌に思わず妄想―― 彼女たちの吐く息は勿論のこと、その〈内臓〉でさえも美しいに違いないと思えてくるほど、優美なアップ・サイズのみの映像でした :-))))))))))
第50回の時には殆ど目に留まらなかったロシア作品が、今回は頗る〈活発〉でした!
Natalia PershinaOlga Egorova による『Scarlet Sailsもそのひとつで、これはロシア革命当時の逸話を題材にしたフィクション〜〜 数名の若い女工たちがミシンを使って布(= 帆)を縫っていると、そこに逞しいお母さんたちが現れてその布の奪い合いとなりました!
その激しい女たちの闘いの後で勝利したお母さんたちは(奪い取った)その布を抱えて海へと向かいます。
「若者たちよ、我々は奇跡を信じなければいけない!」〜〜 お母さんたちがそう叫ぶと、それまでモノクロだった画面に、突如その布の部分だけが緋色(スカーレット)に変ったではありませんか――!
これは1921年に水夫の反乱があったクロンシュタットに残る(昔の)製帆工場で撮影されたのだそうで、作者のコメントには「その反乱を残酷に制圧したのはボリシェビギだった」とありました。(このNataliaz監督とは後日、映画祭の食堂で偶然に会って親しくなりましたが、そのことは次回で触れることに致します)
さて、映画祭にはこの〈インターナショナル・コンペ〉の他に、〈ジャーマン・コンペ〉、〈チルドレン&ユース・コンペ〉、そしてぼくたちの〈回顧展=Profiles〉など幾つもの部門ありますが、昨年度からは更に〈 Profile:NRW  (North Rhine-Westphalia) 〉が設けられました。
前回でも触れたカースチン氏の司会で始まった〈 Profile:NRW 〉〜〜 そのトップ・バッターはドイツ・実験映画のエース:ヤン(Jan Verbeek)監督の 『Osmotic』でした。
それは(韓国の)大きな駐車場への入口で、長いコートに身を包んだ長身の若い係員が、その長い腕をリズミカルに振りながら次々と乗用車を誘導してゆくワン・ショット・ビデオ〜〜 その青年の身振りは、恰もダンスでも踊っているかのようにしなやかで、日常の中に〈超日常〉を感じさせます。
第50回の時の〈インターナショナル・コンペ〉で上映されたヤン氏の『On a Wednesday Night in Tokyo』の舞台は(タイトルにあるように)東京―― 。
カメラが(地下鉄の)始発電車の乗車口を捉えると、そこに徐々に人々がやってきます。日本の都会人なら誰もが体験したことのあるそれは〈鮨詰め電車〉で、最後には例によって駅員の後押しでドアが閉まり発車となりました〜〜 ヤン氏はその光景をワン・ショットで撮っていますが、これもオーバーハウゼンでは大変に〈反応〉がありました。
彼はこのような東洋人の〈摩訶不思議な日常〉に興味があるようですが、こうした〈アジアのワン・ショット・ビデオ〉が7〜8本合わさって一本の作品になった時〜〜 ぼくには、かつてない〈決定的な作品〉の誕生が予感できます :-))))))))))
《Profile:NRW 》の上映会場で
『Osmotic』のヤン監督と司会のカースチン氏
映画祭の食堂で
左からヤン氏と、談笑する中沢あき、山田勇男の両監督
次回はいよいよ《回顧展= Profils》です!
Ken Kobland (アメリカ)
Marjoleine Boonstra (オランダ)
Guy Ben- Ner (イスラエル)
そして
金井 勝の2プログラム
その《反響》などを掲載致しますので、どうぞ宜しく :-))))))))))


《金井 勝の回顧展= Profiles》・・・其のU (2007.10.4) 
晴天が続き、作物への影響などが心配され始めていましたが〜〜 5月7日、目覚めると小雨が降っていました・・・・・。
ドイツの農民にとっては恵みの雨〜〜 しかし、ぼくの作品の上映は〈プログラム・1〉が7日の午後10時30分から、〈プログラム・2〉が翌8日の昼の12時30分からなので、ちょっと心細くなってきました。
麗らかな
オーバーハウゼンの街の佇まい
7日の朝方から降り始めた雨は
小雨から時としてかなりの雨量となり
以後それが繰り返されました

さて、今回は〈回顧展= Profils〉で招待されたということもあって、他の〈Profils〉の作品が気になります。
その顔ぶれは、Marjoleine Boonstra、Guy Ben- NerKen Kobland、Kanai Katsu〜〜 の4名で、正直にいって〈インターナショナル・コンペ〉の作品と比べてもかなりレベルの高いものでした。
が、それもその筈〜〜 みなオーバーハウゼン(などで)の受賞者たちであり、更にその受賞者たちの中から更に選ばれた人たちの作品ですから当然といえば当然ですね。
先ずオランダの女流監督・ブーンストラ(=Marjoleine Boonstra)氏〜〜 難民収容所を扱ったドキュメンタリー作品・『Britanya』(’03)は既に〈第50回・オーバーハウゼン映画祭〉の時にぼくも見ており、確かThe Ecumenical Jyry Awardという賞を受賞しています。
ブーンストラ女史の〈Profils〉は1プログラム・6作品〜〜 彼女は幅のある作家でドキュメンタリー、シリアスなドラマ、ユーモラスなロード・ムービー そしてその中に5分ほどの〈構造映画〉もありました。
学生時代に作ったという
『Reality-Surreality』(’83)がそれで、古風な建物の中を絶えず形を変えながら動く〈影〉があり、何故か人の心を惹きつけて離さない不思議な力をそこに感じさせます。
その昔、「作家の才能は処女作に既に顕れている」〜〜 というのを何かで読んだような気がしますが、その優れた映像センスは〈ジャンル〉を超えて彼女の全作品のなかで活き活きと輝いていました。
イスラエルの、鬼才にして奇才〜〜 更に〈機才〉ともいえるのがベル‐ネル(=Guy Ben- Ner氏〜〜 〈第51回・オーバーハウゼン〉で『Wild Boy』(’04)という作品が受賞しています。
そんな彼の〈Profils〉も1プログラム・ 5作品〜〜 出演者は作者自身と、幼い娘と息子、そして奥さんも出てくるホーム・ムービー 〜〜 だがしかし、それは抱腹絶倒の正に革命的な〈ホーム・ムービー〉だったのです:=))))))))))))
最初に登場した『Berkeley's Island』(’99)、デフォーの小説・「ロビンソン=クルーソー」をモデルにした作品で、台所の流し台の前に造られた砂の無人島がその舞台です。そのたたみ一畳ほどの小島にはただ1本の椰子の木が生えていて、それに掴まりながら救助を待つのが彼〜〜 と、そこに可愛い女の子が這って現れ、この親子による無邪気なドラマがユーモラスに展開〜〜 会場は〈爆笑の渦〉となりました :=))))))))))))
メルヴィルの小説から発想した『Moby Dick』(’00)という作品も、その台所を大海原に見立てた捕鯨物語〜〜 エイハブ船長を演じる父に無邪気に絡んでいたお嬢ちゃんでしたが、次の作品『House Hold』(’01)になると父とのコラボレーションに積極的ではなくなってきました。つまり、年齢を重ねるうちに段々と(出演するのが)恥ずかしくなって、お嬢ちゃんの出番はちょっとだけ〜〜 その分、お父さんは頑張らなければなりません〜〜!
さて、幾つかの偶然が重なり(どういう訳か台所にあった)檻に閉じ込められてしまった父ちゃん〜〜 と、次から次へと奇想天外なアイデアを繰り出しながら、遂に檻からの脱出に成功するのです :-!!!!!!!!!!
しかし、それだけでは〈鬼才にして、奇才にして、機才〉〜〜 と言うわけにはいきません!
観客の度肝を抜いたのは、ユニークな〈消火ショー〉〜〜 二つのバケツに新聞紙を入れて点火すると、彼は徐にペニスを取り出し、その先端にホークのようなものを充てがったかと思うと、勢い良く放尿したではありませんか :-!!!!!!!!!!
と、お見事〜〜 ほぼ等分(の量)に分かれた〈尿〉は、台所に二条の放物線を描きながらとび、目指すバケツに夫々が命中〜〜 瞬く間に燃え盛る火を消し止めたではありませんか :-!!!!!!!!!!))))))))))
アメリカの、既にかなり名の知れれた映像作家・コ−ブランド(=Ken Kobland)氏〜〜 彼の〈Profils〉は2プログラム・8作品で、ぼくはそのうちの〈プログラム‐1〉だけを見ました。
『Frame』('76)は〈構造映画〉と呼べる作品で、海辺の風景を映したスクリーンの中にもうひとつの小さなスクリーンがあり、その外側の画像と内側の画像とで〈自動車社会に於ける風景論〉を講じようとしたのかも知れません。しかし、映画はスクリーンに映ったものが全てですので、多分彼の高邁な製作意図もこれでは(他者=観客に)伝わらないと思いました。
『Westibule』('78)もオプチカル・プリンタを使って作った〈構造映画〉で、作者のコメントだと自分が暮らす大都会のスペースについての思索だそうです。同じ画面に同じ裸の男のアクションを沢山重ねていって「思い出、幻想、気違いじみた絡み合い」を狙ったようでしたが、こちらはその映像に惹きつける力があり、とても良かったと思いました。
『Landscape and Desire』(’81)『The Shanghaied Text』('96)は、ともに作者が気になるアメリカの風景を記録したものだそうで、特に『The Shanghaied Text』の舞台はアメリカ北西部にあるモンタナ〜〜 殺風景な荒野にハリウッド・スターたちを組み込んで新しい〈神話〉を企んでいたようです。
〈回顧展= Profils〉のなかで、ぼくが一番気になっていた作家がこのコ−ブランドでしたので、正直にいって一寸物足りなさを感じました。
一緒に見ていたキュレィターからも不満の声が出ましたが、幾日かが経って、そのキュレィターの同じ口から別の言葉が返ってきました。ぼくが見逃した〈プログラム・2〉の中にコ−ブランドの〈真骨頂〉があったというのです―― !
最終日のロビーで上映を待つ
我が妻・智女(コサージュ・デザイナー)
上映後の〈トーク〉で
左からオラフ氏、金井、通訳のヤスイさん
※参考頁 <プロフィール&自作解題>   <英語版= English version>   <space neo での上映会情報>
さて、ぼく=金井 勝の〈回顧展=Profils〉〜〜 、   
2プログラム・5作品で、
5月7日の〈プログラム‐1〉は『時が乱吹く』、『聖なる劇場』、『スーパードキュメンタリー 前衛仙術』、翌8日の〈プログラム‐2〉は『無人列島』と『GOOD−BYE』です。(※ここが 短編映画祭ということで、残念ながら長編映画の『王国』は参加できませんでした。)
その〈プログラム‐1〉は、上映開始が夜の10時30分からで、その上に冷たい雨が降り続いていましたので心配でしたが、担当の司会者・オラフ氏などの尽力もあって盛況〜〜 大いに感謝しています!
けれども、、、、、、
最初の作品・『時が乱吹く』で、何と出端を挫く〈映写トラブル〉が発生 :-!!!!!!!!!!
日本の上映会では問題が起こらなかった16ミリプリントでしたが、プロジェクターとの相性が悪かったのでしょう〜〜 何度も試みましたが結局は駄目でした :-!!!!!!!!!!
そこで急遽持ってきたmini-DVに切り替えて上映〜〜 映画祭側としては〈製作当時のままの上映で、プロンプタ−による同時通訳〉が基本のようでしたが、その同時通訳では作品の中にある城之内元晴氏の〈詩の量〉の問題などもあり、英語字幕が入ったこの〈DV上映〉の方が安心できる上映なので 〈塞翁(サイオウ)が馬〉といったところでした :-)))))))))))))))
続く2作品は最初からビデオ作品で、『聖なる劇場』は8ミリ・ビデオからデジタル・ビデオにしたものであり、『スーパードキュメンタリー 前衛仙術』は全ての作業がデジタル〜〜 そこには藤岡朝子さんの翻訳による〈英語字幕〉が入っており、更にDV-Cam と miniーDVとを持参していたので万全です。(笑)
先ず『聖なる劇場』ですが、これはぼくの作品の中でも最も地味な作品ですが、ケルンにある〈日本文化会館〉(= 5月中旬に《金井勝 映像個展》開催)から(この映画祭に)来てくれた清水優子女史は、これを最も高く評価する御仁です。
また『前衛仙術』は、〈第50回オーバーハウゼン〉で国際批評家連盟賞を受賞した作品であり、またそれがあったからこそこの〈Profils〉の一員に選ばれたのだと思います。
さてその〈プログラム‐1〉の反応ですが、
先ず『時が乱吹く』のトップシーンで、ボレックス( =16ミリのカメラ)から流れ出たフィルムがおでんの中に入り込むところで会場がどっと沸き、そこで生まれたスクリーンと観客との〈素晴らしい関係〉は、衰えることなく最後まで続き、『前衛仙術』のラスト・シーンでぼくの〈別人・勝丸〉が大空に羽ばたくと、拍手喝采〜〜 最高潮に達しました :-!!!!!!!!!!)))))))))))))))
10時半から始まったこのプログラムでしたが、その最初の10分は〈映写トラブル〉〜〜 、『時が乱吹く』が62分で、『聖なる劇場』が29分、そして『前衛仙術』が33分で、上映が終わったのが翌日の1時近くになり、それからが〈トーク&質問〉となります。
その《トーク》でぼくが力説たのは、『聖なる劇場』に特別出演している大和屋竺、城之内元晴、そして佐藤重臣のことでした。
司会者のオラフ氏は既に大和屋のことも城之内のことも良く知っていましたが、重臣についての知識は皆無〜〜 そこで「世界の新しいアートを日本に紹介したのは重臣であり、若松孝二、大和屋、足立正生、小川紳介などを発掘したのも彼で、60〜70年代の日本映画を語る時に欠かせない人物」〜〜だといいました。
そういった訳で、遥かなる独逸の空の下に、ヤマトヤ、ジョウノウチ、ジュウシンの名が飛び交っていたのです :-)))))))))))))))
〈質問〉の時間はもっともっと欲しかったのですが、その質問の中で最もぼくに勇気を与えてくれたのがアメリカから来たというぼくと同年輩の御仁〜〜 「みな大変に魅力的だ、これらの作品をニューヨーカーに見せるにはどうすれば良いのか?」と云う言葉だったのです:-!!!!!!!!!!)))))))))))))))
その全部が終了したのはもう2時近くなっていたと思います。
すると、〈SAPPOROショートフェスト〉の麻生栄一から声が掛かり、山田勇男さんや中沢あきさんたちと小雨が降る中を映画祭の〈特設食堂〉へと向かいます。
その道すがら麻生氏が絶賛したのはその〈観客の反応〉、あの〈会場の盛り上り〉〜〜 流石に映画祭の責任者らしい見方でした!
(笑)
その食堂で、笑顔をつくりながら近づいて来たのが前回の《そのU》でも触れたロシアの女流監督・ナターリア(=Natalia Pershina) 氏〜〜 彼女は先程見てきたばかりの作品に、「そのどれもが今までに見たことのない世界―― !」と言ってくれましたが、敢えて1本を選ぶとすると『時が乱吹く』だといいました。
更にぼくがトイレに行こうとすると、今度はアメリカのボストンから来たという青年が近づいてきて、「貴方の作品はグレート!貴方は映画の革命家だ!」と言ってくれました :-)))))))))))))))
そして、そして、このような時に、もっと英語が話せたらと心底から思ったという次第です :-!!!!!!!!!!!!!!!!!
さて、映画祭の最終日も雨となりました・・・・・!
この日の〈プログラム‐2〉は、『無人列島』(’69)と、『GOOD−BYE』(’71)の中篇 2本で構成されております。
既に『無人列島』の方は度々ヨーロッパで上映され、現に〈第40回オーバーハウゼン〉の〈日本映画特集〉でも上映されて「高い評価を得た」と聞いておりましたので少しは自信がありましたが、問題は『GOOD−BYE』〜〜 こちらは海外での公開は殆どありませんでしたし、30〜40年前の、それも遠く離れた極東の地の話でしたので不安がなかったわけではありません :-??????????
しかし、上映の後の〈トーク&質問〉にも多くの方が残ってくれて、『GOOD−BYE』に於ける〈表現の技法〉の問題などが論じられ、こちらの危惧を払拭してくれました。
中でも 「その音の使い方が実にユニークで素晴らしい! サウンドについてどういう考えをお持ちですか?」と、訊いてきた御仁は、後でオラフ氏に聞いたところドイツの有名な映画監督だということでした :-)))))))))))))))
また、増村保造の研究者だ名乗り、《増村監督とぼくとの関係》を熱心に聴こうとする御仁も出現しました。彼の名ジョナサン・ローゼンバウム(=Jonathan Rosenbaum)氏といい、国際批評家連盟賞の審査員として来ていたのでしたが、後日アメリカ人の友人に訊いてみたところ、彼は(アメリカで)最も信頼されている評論家のひとりだということでした。
そして、
この〈金井 勝の回顧展〉で最も嬉しかったことは〜〜 オーバーハウゼン映画祭の前・ディレクター:アンゲラ・ハート(=Angela Haardt)さんとの再会であり、彼女に(上映された作品の)全てをご覧頂けたということです :-)))))))))))))))
ハートさんはその昔、城之内元晴の作品を見て「とても心を動かされた」そうです。そして〈第40回〉の準備で来日した時、「イメージ・フォーラムで『無人列島』を見て吃驚〜〜 みんなが他の作品を薦めてくれましたが私の心は動かなかった― !」と、彼女はいいました。
そして今回、突然に、城之内への追悼作品・『時が乱吹く』が現われ、城之内とぼくとの関係が浮彫りになったことで驚かれていたようでした :-)))))))))))))))
美味しい食事を頂きながら、
やはり気になったので伺ってみますと、暫らく考えた後に、「やっぱり、あの時代のものは違うね〜〜」ということでした。それはつまり、彼女にとって金井作品の最高峰は、『無人列島』&『GOOD−BYE』だということです。
Chicago Readerの ジョナサン・ローセンバウム氏
そして ぼく(左)と、町口さん
アンゲラ・ハートさんが我々をディナーに招待 −))))))))
左からハートさん、山田監督、智女、町口さん、ヤスイさんと金井
ぼくと妻は
オーバーハウゼン国際短編映画祭の後
ケルンにある≪日本文化会館≫で上映と講演とを行い
一路ベルリンへ !
前年のトルコ旅行で気になっていた
古代都市・ベルガモンの発掘物が展示されているという
ベルガモン博物館を
確とこの眼で観ておきたかったからです:-))))))))))



第50回オーバーハウゼン映画祭
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