イメージフォーラム映像研究所
                  2012年度卒業制作展

                         客員講師=金井勝の全作品辛口寸評
                    
〜A プログラム〜

popcorn head 板垣雅与/ビデオ/3分
コメント用紙には
「弾けきれない豆が見た夢」とあり、渋谷を舞台にその豆の苛立ちを色ガラス越しの太陽、ポップコーンのアニメ、コーンを食べる音やシュールな詩などで構成した作品〜〜その実験精神には敬意を称しますが、この面白いテーマを伝え切れていなかったと思いました。この手の作品はなかなか伝わりにくいのが映像表現ですので、“弾けきれない豆”の気持ちをアニメを使ったりして、もっと工夫を凝らさなければ観客に伝わりません!

妙な肉』 三ツ星レストランの残飯/ビデオ/6分
コメント用紙には
「極めて下品で下劣で、キッチュで珍妙な、ハートフルハッピハッピーアニメーションっ!」とあり、巣鴨辺りの商店街の実景がアバン・タイトルで、演舞場の舞台らしきところに≪健康食品のお化け≫のようなのが現れると、「お帰りなさい!」と言いながら小さなお化けも出現し、「元気が一番!」と、お化けたちは珍奇なダンスを踊りだします。すると舞台には食べ物の形をした人形たちが現れて、そこに「素敵な時間をどうぞ!」とスーパーが入りました。今流行の≪健康食≫を皮肉っているのか?ともあれ、斬新でなかなかの秀作〜〜最後にもう一つ大きな展開があれば話題になる作品!

『夜果てぬ粒子』 片倉大貴/ビデオ/15分
コメント用紙には
「ある男の、ある夜の出来事。ある女の視線の行方。そのシセンの先にあるもの。余韻を感じられるような映像体験を、というところから制作を始めた作品」とあり、晴れた日の海辺の風景の左側に、火の点いたマッチ棒が浮かび上がってきました。次のショットは広い画角の波打ち際、その左隅に椅子に腰掛けて煙草を吹かす女性。海岸から離れて夜の街、室内でのトーストのアップや花のアップ、燃える花などのショットが続いて、元の海岸〜〜海に火の点いたマッチ棒が浮かび上がって、椅子から立ち上がった女が、渚を去ってゆく。
この作品は、ビデオ作品ではなく粒子の粗い8mmだった方が良かったと思いました。フィルム作品で、あの海の中から燃えるマッチ棒が現れたら、かなり印象に残る映像になったと思います。

membership cards 小川亮/ビデオ/40分
コメント用紙には
「ただ同じ会員証を持っているというだけの理由で、そこにいる三人の男、会員証を紛失したひとりの男は、会員証製造所"factory"を訪れる。出会いと別れの、ある可能性。
フィルムで映画を撮るという行為の手始めとして、自分の現像したネガだけで一本の映画を成立させたい、という思いから制作しました。」
とあり、スクリーンに映し出された映像は、自分で現像した、所謂≪自家現≫による陰画(=ネガ)でした。じゃれあって遊ぶ3人の男たち、お茶を飲む男、バットを構える男、投げられた球は生卵だったりする、たわいのないショットが続き、全体の印象は自分たちが楽しんで作った映画のように見えましたが、どっこい≪観客と対決≫しておりました!それは男たちの胸の≪会員証≫で、その写真だけが陽画(=ポジ)だったことです!これは撮影前に仕掛けておかないとそうならないので、素晴らしアイディアでしたが、もう少しその会員証に寄ったサイズもなければ判りませんよ!また“factory”での出来事も面白くは伝わらず勿体無いと思いました!
     
〜B プログラム〜
目目朱朱』 木村瞳/ビデオ/14分
コメント用紙には「これは目目朱な、ある一日の風景」
とあり、そのタイトルの≪目目朱朱≫は≪モクモクシュシュ≫と読むらしいのすが、パソコンの検索でも全20巻の「日本国語大辞典」にも出ていなかったので、作者の造語だと思います。トップ・シーンは画面全体が薄いオレンジ色で、右から左に向かって微かなグラデーションで薄くなっていていましたが、そよ風がふわりと入り込んできて、それが窓のカーテンだと分かります。そのふんわりとした≪目目朱朱≫の室内の風景〜〜芥子の花、熊の人形、靴下を履く足、スパゲッティを食べる口元や、床の上の毛糸など、ふんわりした日常の動きをセンスの良さで纏めていました。

哀情』 田代眞梨/ビデオ/4分
コメント用紙には「女性の愛情の深さについて考え、愛情が深すぎる人を描きました。この作品に出てくる女性をかわいそうと思っていただけると嬉しいです。」とあり、モノクロのショットとカラーのショットを使い分け、口紅を塗る女、外出する男女、部屋の中の男女、料理を作る女、口紅を塗る女、指輪のアップ、苛立った女の手がその口紅を机に突き刺しました!どうやらこれは自分の経験をもとに、男女間に生じた不和を描いているようでしたが、何が原因でそうなったのか〜〜?観客にはこのドラマの内容そのものもあまり分からなかったと思います。劇仕立ての作品には、それなりの計算と構成がなければ成り立ちません。

Trip 須賀川望実/ビデオ/10分
コメント用紙には「2012年に訪れた先々で撮った映像を使い作品にしました。現実の風景を重ねているのに夢を見ているような映像になりました。」とあり、雪の日の灯台らしきものが見える風景、川沿いに広がった農耕地らしき風景、落葉樹林と空の風景、二人の人影と大きな植物、樹木と溶け合った形で2頭のキリンらしきものの蠢き、橋のある川の夕景、夕日に映える川面で終わっています。特に心に残った映像は、キリンと巨木のショットで実に見事でした!実験映像を沢山見てきたぼくも初めて見るその≪手法≫〜〜しかしこれは≪模倣作品≫が現れそうな欠点もありますので、このシリーズを何作品か作って、≪須賀川ワールド≫をアピールするのはどうでしょうか!?

ありきたりのふつうの日々』 白岩義行/8ミリ/60分
コメント用紙には「出来ることで小奇麗にまとめるより、うまくいくかわからずとも、やったことのない、出来るかわからない事に取り組みたいと思い
、つくり始めました。」とあり、大きな窓からパン・ダウンするとヒゲモジャのシルエット。男は映画を作りたがっていますが上手くゆかず、やりきれない日々を送っている由のナレーションが入ります。清掃業のアルバイトから帰ったある日、自室のベッドをあげると、そこにはVHSが隙間なく積まれており、本棚にもDVDがぎっしりと並んでいて、映画への異常な執念が感じられました!また彼が憧れる『駆ける少年』の監督(外人)に会い、そこで励まされたのか撮影に編集に全力を注ぎます!外人監督とのシーンでは音声が必要でしたが、編集の場面での髪や髭を切るショットとスプライシングのショットとの≪カット・バック≫はとてもユニークでした!

C プログラム〜


『愛しいあなたに会えるまで』 坂本直樹/ビデオ/30分
コメント用紙には「映画『愛しいあなたに会えるまで』は主人公の彩子の過去と現在の恋愛を通じて、人間にとって恋愛が不可欠であり、その恋愛で人間は多大な喜びや深い悲しみを感じることを描いています。人は恋愛体験をしてこそ、生きていることを実感する映画です」とあり、トップ・シーンはオフィス街を歩いてくる女性から始まりまり、次の回想シーンのモノクロ画面では彼女は男と抱き合っていました。会社の電話が鳴ってバーに行くと昔の女の友達がいて、主人公の≪元彼≫の話を切り出しますが、興味を示さない彼女〜〜と言ったドラマ風な作品でしたが、構成力の欠如もあって、残念ながら印象の薄い作品となってしまいました。

しんやのばぁばん』 福田幸代/ビデオ/25分
コメント用紙には「子供の頃、遊びに行くといつもニコニコ相手をしてくれた近所のおばあちゃん「しんやばぁばん」。あの頃より大人になった私が久しぶりにばぁばんに会いにかえった、冬の話。」とあり、東京から岡山へ帰省して≪しんやばぁばん≫を取材したドキュメンタリーです。ナレーションでは≪認知症≫と言っていましたが、割としっかりした人のよさそうなおばぁちゃんでした。主な話の内容は、つわりがひどかった妊娠の話、雨漏りのひどかった家の話、優しかった夫が中国に出征して、帰還した後すぐにビルマに飛ばされ、敗戦の直前に戦死した話などが語られ、好感が持てるドキュメンタリーでした。ただこういう作品では作者が登場した方がずっと良いと思います!

ミルミル夢ミル飛んでミル』 川北玲/ビデオ/25分
コメント用紙には「彼は大空に飛び立つ。自分の影に打ち勝つため。運命の人に出会うため。理想を理想に終わらせないため。誰にもサヨナラを告げず、ただひっそりと・・・。そして彼は歌う。誰も聴かない抒情詩を。求愛にも似たエレジーを。」とあり、ギターを掻き鳴らしながらひとりの青年が登場ると、突然そこに泣く女や回るレコードのアニメーションが入りました。ともあれ、ギターを弾く青年と彼が両親と住む家庭、そして中途半端なアニメで綴られた自由奔放な作品でした。最終章の「すべての人よサヨウナラ」のアニメで、風船に付けられた猫が空高く舞い上がり、やがてその風船が鳥に啄かれて破裂して落下するシーン〜〜何故かそこがとても印象に残りました。

〜D プログラム〜

8で殺せーshoot me deadlyー』
 光永惇/ビデオ/30分
コメント用紙には「8ミリカメラで映画を作っている男に忍び寄るデジタルの刺客。デジタルカメラの映像と(デジタル化した)8ミリフィルムの映像を掛け合わせた映画です。フィルム映像にだけ登場する「あの子」に、映画にまつわる私の心象を託しました。」とあり、フィルムの8mmカメラを持った男とデジタル・カメラを持った男の“決闘”を撮りたかったようで、作者の気持ちも分からなくはありませんが、作品にするとなると無理があり、小さなカメラを持った2人の≪映画ごっこ≫にしか見えませんでした。

Miron』 Production E.D./ビデオ/30分
コメント用紙には「さえない男Mironが、自分の夢の中で大活劇を繰り広げるB級映画。卒業制作に向け、そんな物語を作成しようとするが・・・」とあり、ロシア人を使って映画を撮ると言うことだったが、その主役の男が帰国してしまい、代役を見つけたが・・・と言った言訳が次々と出てくる導入部でしたが、突然、モンスターを作っていると言う≪造型師≫が登場して苦労話や抱負などを語りながら彼が作った被りものなどを披露します。この後、作者のウソかホントか判らない間抜け話があって、最後は外人男女数名によるコメディ(?)が展開するというハチャメチャな作品でした。が、多分CGによるものだと思いますが、途中にあった≪絵コンテのデッサン的な動く実景≫(?)は、とても印象に残りました!

花のように人の世に』 松岡みのり/ビデオ/17分
コメント用紙には
「年を重ねるということは、なんて豊かなことだろうと、祖母の表情を見る度に感じる。
祖母の姿は叙事詩のように美しい。
日々些細に変調している体に耳を傾けながら、家の外では季節が少しづつ巡ってゆく。
多くの人と関わり、自然とともに生きて来たことを、家の内側にいながら
自己に内部の記憶の中で再生しているかのような遠い目をする。
そしていつもそれらで満たされている。
宿生木(やどりぎ、ほや)は、他の木の枝などに寄生するのでこの名前がある。
枯れた大木の上で生気を保ち、春に再生する為の力を与えている心臓のようにも見える。
万葉集では保与と書き、「保ち」「与える」という意味を持つ。 
強く美しくそっと佇む祖母の姿が保谷の紋と重なった。」
とあり、先ずこの文章の巧みさに惹かれた後に映像と向き合いました。紫陽花の花、おばぁちゃんが蕎麦を食べている、庭の残雪、おばぁちゃんの眠る顔、八重桜の花〜〜摘み取られた筵の上の八重桜の花々〜〜作者の家は花から染料を取る≪家内工業≫だろう、花を桶に入れ、長靴の足がそれを踏みつけ、そこに2種類の添加物が入れられました。そしておばぁちゃんの顔のアップとなり、やがて大欠伸となります。作者はこの祖母の姿に叙事詩のような麗しさを感じ、観客のひとりとしてぼくもなんて安らかなお顔だろうと思いました!次のショットは花の桶に石の重石が載せられましたが、実は、祖母のイメージをより豊かに見せるために知り合いの工場で撮影させてもらったということでした!話はちょっと変わりますが、原一男のドキュメンタリー映画『全身小説家』
(1994)をご存知でしょうか〜〜主人公の井上光晴について友情出演で登場した埴谷雄高は、「彼は全身小説家ですよ!」と言ったことからそれが題名にもなった映画です。その≪全身小説家≫を乱暴に言ってしまえば≪嘘つき≫〜〜松岡さんもなかなかの≪全身映像詩人≫でしたが、あの≪家内工業≫の描写などにはまだ物足りないものを感じました。そして最後に出てくるエプロンの色(オレンジ色に見えました)〜〜あの八重桜の染料で染めたように見せて欲しかったのですが、如何でしょうか!?

アシハラノナカツクニ』 宮本尚昭/8ミリ/11分
コメント用紙には、「風化されたくない人の願い
忘却の彼方に滲んでゆく、人々の記録・・・
光りうつろう 
時間の痕跡をみつめながら
2013年の芦原中国を、追い求めてみよう」 
とあり、そのタイトルの映像からして“意気込み”が溢れておりました!続いて境内の猿回しと見物人、赤ちゃんとその家族、公園で佇むサラリーマンなどがあって始発電車内の泥酔男、清掃員がエスカレーターの手摺を拭く〜〜と続きましたが、素晴らしい繋ぎはその泥酔男の後ろに流れる“車窓風景”と、清掃員の肩越しの雑巾が“手摺の上を滑ってゆく”速さとが(逆方向だったと思いますが)ほぼ同じスピードだったことです!そして昼寝をする男、競馬新聞を読む男などが数ショット続いて、流れる清水の上に人形の紙が流れてきました。さて、タイトルの「アシハラのナカツクニ (葦原中国)」ですが、これは古事記などにも出ていて、天の高天原と地下の黄泉の國との中間にある地上の世界=日本國の異称だそうです。宮本君のカメラは、やがて地蔵や羅漢の石仏を木漏れ日の中に捉え、高床式の建物をワン・ショット挟んで、森の小径の中の流れる光を捉えてゆきました!
ちゃんと計算された真面目な作品でしたが、彼の今後のためにあえて大島渚監督の言葉を引用させてもらいます。「観客や読者はじつに残酷なもんでしてね。だれかの作品をわかったとなると、はい、わかった、ご用済み、ということになるんですよ〜〜」。次は、観客に有無を言わせない衝撃的な作品をお願い致します!

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一年間お疲れ様でした。36期の皆さんとは一度だけ≪自作を語る≫でお会いしただけでしたので、全く初めて出合った映像をメモを取りながら見せて頂きました。が、ほぼ一ヶ月経った今でもかなり憶えておりましたので、夫々の作品に強い力があったのだと思います。ともあれ、これでやっとスタートラインに立ったところなので、この≪寸評≫もあえて少し辛口に致しました!怒りを持って、世界を目指して頑張って下さい!世界を驚かせる作品を作って下さい! (金井 勝)
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  popcorn head    夜果てぬ粒子 
   
  ありきたりのふつうの日々  アシハラノナカツクニ

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当日700円 会員 500円 入替無

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