イメージフォーラム映像研究所 2005年度 卒業制作展

第29期映像制作コース 受賞者発表!

このHPでの〈受賞者発表〉が大幅に遅れてしまい、
誠に申しわけありません。
しかし、これにはチョッとしたわけがあります。
少し時間を置かないと、
卒業生たちの脳内は燃え盛っているので面倒なのです。(笑)
といったようなわけですので、ご容赦のほど宜しくお願い致します。
時の経つのは早いもので、IF映像研究所の卒業制作展もこれで29回目となりました・・・・・ 「十年一昔」といいますので来年は「三昔」〜〜 凄いですよね!
さて、卒展最終日に行われる恒例の〈審査会〉〜〜 奥山順市、金井 勝、かわなか のぶひろ、鈴木志郎康、萩原朔美、西嶋憲生、村山匡一 郎、中島 崇、池田浩之の専任講師によって討論となりました。

(この頃鈴木氏には「表に現す〜志郎康言語大爆発」が多摩美術大学であり、その日程と重なるプログラムはビデオで観てもらって、氏の選んだ作品も考慮に入れての審査となりました。尚、同時公開となったアニメーション・コースの作品は、この選考の対象外)
激論の末、受賞作品は下記の通りに決定――!
最優秀作品には秋山祐徳太子氏製造のブリキの彫刻が、優秀作品(4作品)には同氏製作の版画が贈呈されました。また今年は、IFシネマテークで個展を開ける〈個展賞〉も加わりました。
最優秀作品賞
 後藤 天 
「幸せな記憶」
 ビデオ 10分

優秀作品賞
 大石 勝敏 「鬼やんま」
 ビデオ 9分
 難波 阿丹 「Rules」  ビデオ 30分

 江川 布志子
 「かえっておいで。」 ビデオ 15分
 田辺 泰大 「四角い眼」 ビデオ 7分

個展賞
 野上 寿綿実 
「夜中の三時」 ビデオ 6分

受賞者左から難波、大石、後藤、江川、田辺、野上

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後藤 天 「幸せな記憶」〜〜は、先ず作者が観客の一人ひとりに写真を渡すところから始まりました。渡されたその写真(下の左)の裏面には、「この写真は D プログラム 「幸せな記憶」 作品内使用物です。 お帰りの際には、この写真をゴミ袋に捨てるか、もしくはお持ち帰りになりますようお願いいたします。 後藤 天」とあります。
一通り写真が渡ると、もうあちこちからその写真を破る音も聞こえ、映写となります・・・・・が、その画面の中でも父母と一緒に写った写真が破かれました。
すると、(作者のこどもの頃の家族写真などをバックに)若い女の声でナレーション〜〜 〈彼〉から聞いた話として〈彼女〉は、「彼はサッカーが巧く、弟思いの子だったそうです〜〜」とか、「勉強が出来たのでよく父親に褒められていたそうです〜〜」とか、のんびりした声で語ります。
しかしぼくはこの作品の〈講評〉には一度も立ち会っていなかったので、この段階ではまだ作者の〈企み〉が解らず油断してました。が、次のナレーターは〈母〉で、その次が〈父〉〜〜 同じ内容の〈事柄〉を三者は三様に語るので〈吃驚仰天〉です―― !
その時、黒澤 明の傑作・「羅生門」が脳裏をよぎりましたが、その設定と展開に於ける見事な〈戦略〉によって、彼の企む〈世界〉にまんまと引きずり込まれていました!
後で(作者に)訊いてみたら、「羅生門」は観たことはないとのことでした〜〜 が、それはともあれ〈ニート青年の家庭内『羅生門』〉(笑)としても頗る新鮮〜〜 もう一度観たくなる逸品です―― !
■ 配布した写真と、作品の中で破られる写真とが同じだっ方が良かったと思いました。

配られた写真・両親と天(たかし) ブリキの彫像と後藤 天

大石 勝敏 「鬼やんま」〜〜 ナンセンス映画の奇才・大石勝敏は、既に26期卒業制作で「フルフェイス家族」を制作しており、それがNHKの〈デジタル スタジアム〉で放送されたことなどもあって、既に〈知る人ぞ知る〉作家です。
さて、この「鬼やんま」も彼独自のユーモアに満ち溢れた作品で、(作者の故郷でもある)北九州の山中に生息するという〈鬼やんま〉が主役〜〜 話はこの絶滅寸前だという生き物が田んぼの溝に嵌っていて、作者の家族による救出されるところから始まりました。
しかし、その〈鬼やんま〉(= その風体はステテコ姿の老人 =) に居着かれてしまった家族は、その奇怪な行動 〜〜 脚をバタつかせたり、家の周りを走り回ったりするので困り果て、遂に〈鬼やんま〉を山に捨てに行くことにしました。
が、何と〜〜 その谷川のほとりは〈鬼やんま〉たちが埋め尽くし、みな狂ったように脚をバタつかせていたではありませんか・・・・・ !
前作のNHK放映がモノを言い、地域住民の協力は絶大で、四十余りの〈鬼やんま〉をゲット〜〜 その統制の取れたマス・パフォーマンスが見せ場です―― !
■ しかし前作「フルフェイス家族」には、ナンセンスの笑いの奥に観客の一人ひとりが脳内に創る「フルフェイス」がありましたが、「鬼やんま」にはそのあたりに弱点を感じます。

難波 阿丹 「Rules」〜〜 高架線の下の狭い畳の部屋に住む青年が主人公で、彼は12月27日に失踪した母の亡霊と対峙しながら毎日を送っているという設定〜〜 何故か、ぼくには泉 鏡花の世界と重なる〈匂い〉のようなものを感じました。
部屋の上を走る電車の正面からのショット、揺れるちゃぶ台の上のコップ、手に手が重なって「手は清潔に」と
(水で)洗われ、ガスコンロの「加熱」で消毒されます。
自らに与えた厳しいRulesに耐え切れなくなったのか、手にしたフォークが空を切り壁に当たって発する鈍い金属音〜〜 枚挙に暇がないほど、その豊かな表現力と映画の時間を心得た才能によって、観手の心をスクリーンの中に惹き込んでゆくのです。

既に作者自身も気づいていることかも知れませんが、この作品の問題点は、作者と主人公との間に感じてしまう〈距離感〉〜〜 確かにこれはフィクションなのだから、作者自身の体温や息遣いまでがダイレクトに(観客に)伝わらなくても良いのかも知れませんが、そこには「巧くできたフィクション」で終わってしまう危険性もあるのです・・・・・。

江川 布志子 「かえっておいで。」 〜〜 打って変わってこちらは作者自身が登場するセミ・ドキュメンタリー作品。
田舎から上京して1年になろうとする主人公は自分を取り巻く環境に馴染めず、毎日がただ「慌しくて」、「重たくて」、「空っぽな時間」〜〜 そんな中に蹲っている自分自身に嫌悪しています。
そんな彼女はある日仕事先への道を嫌って公園へ〜〜 その水路の水で乱暴に化粧を落とし、掛かってきた携帯も水路に捨ててしまいます。そして彼女は〈のしかかる空しい重力〉から逃れるために人気のない河畔へ〜〜 そこでネックレスや時計やバッグなど、身に着けているものを川に捨てながら、そこで朝を迎えました。

主人公の苦悩は作者の苦悩〜〜 それを赤の他人である〈観客〉に見せるために、作者は〈計算された映像〉で綴ってゆくのです。なかでも〈足で脚を掻く〉ショットや、部屋に帰ってきた時に付いたのでしょう床の〈泥足の足跡〉など〜〜 忘れることが出来ない映像です。
この1年間で江川ほど伸びた受講者はおりません。が、自分にひきつけた作品の次は大変なので、更に頑張って下さい!
田辺 泰大 「四角い眼」 〜〜 遠い距離に置かれたモニターからは幼児虐待ニュースが流れてきます。しかしそのアナウンサーの発声法は機械的で、それを聞いているのかいないのか、ひとりの男が肉の塊と格闘しています。
やがて屋外に出た男は、ポケットから紐で巻かれた肉塊を取りだして、それにしゃぶりついているうちに網タイツを着けた女性の太ももを連想します〜〜 そうこの作品は主人公の妄想で展開してゆくシュールな作品なのです。
特に印象に残ったシーンは、沼に嵌って〈もがく〉男の脚と、裸の女の〈もがく〉脚との重なり具合が絶妙だったことです。
■ 作者の最初の発想は映像作品としては難しく、混迷〜〜 これは作者自身が〈もがき苦しみ〉ながらやっと産み落とした作品です。といったような訳でまだまだ発展の余地があり、特に〈手型の椅子〉の使い方などは工夫次第で更に面白くなる筈です。

野上 寿綿実 「夜中の三時」 〜〜 こちらはドローイング・アニメーション作品です。湯飲みからゆらゆらと立ち昇る湯気、腕組みをして天井を見詰めている中年男、部屋の壁に掛かっている鏡にはシルエットの樹木が映っていて、そこに降りしきる雨が描かれています。
やがて男のアップになると、次は雨漏りがしている部屋の部分となり、天井を伝わる雫のアップ、そして座敷のフル・ショットでは皿やバケツなどの雨水受けが所狭しと並んでいます。
そんな中で、この中年男がとった最後のアクションは、何と大欠伸〜〜 泰然自若とした画中の主人公に拍手を送りたくなります。
■ 気になったところは、全てのショットが同じ長さに感じられたことぐらいです。今年はアニメーション・コースが1年間となったためでしょうか、本科のアニメ作品は数点しかありませんでした。が、この「夜中の三時」はアニメ・コースの22作を含めても、吉田可奈「ニンフ」と並んで傑出してました!

勝丸が勝手に選んだ〈選外ベスト10〉
柴崎 萌
「一日四季ツアー」、栗田 紅「孤島の歌」、長谷川英佑「奇体服」、池浦由起子「ボンと私」、塩出太志「セツナ」、北野裕希「映像洪水」、宮越泰子「Femme Homme」、堀 宏行Lose,Lost,Lost」「ERR」、大石勝敏「ちくしょうべん」
(プログラム順) 〜〜 といったところが印象に残りました。
■ 第29期は、全体的にはかなりレベルの高い年度だったと思いますが、ずば抜けた作品となるとちょっと寂しく思いました。
入選作とそれに続く作品とは微差でみな逆転可能〜〜
25玉野真一は卒業制作では大失敗しましたが直ぐにプランを練り直して活動開始〜〜 暮れの〈選抜作品展〉では全てをぶち抜く大傑作=「よっちゃん ロシア・残りもの」を発表し、それがあの〈ぴあ= PFF2002〉でも〈審査員特別賞〉を受賞しているのです――!
講師陣は〈講評〉の度に諸君を
(決して怒っていたのではなく)怒らせてきましたが、これからは自分で自分を怒らせながら、玉野のように本気になって頑張り、ぼくたちを驚かせて下さい―― !
かわなかのぶひろ氏の[全作品講評]はIFのHP

イメージフォーラム映像研究所 2005年度 卒業制作展

第29期映像制作コース
第3期アニメーションコース

315日(水)〜19日(日)

<上映作品>
映像制作コースAクラス(A・B・Cプロ)
映像制作コースBクラス(D・E・Fプロ)
アニメーションコース (Gプロ)
Aプログラム
かえっておいで。 江川布志子/ビデオ/15分
水は溶けたか 清水拓也/8ミリ/5分
fractus 佐藤光恵/ビデオ/8分
On The Lotus 古川明大/ビデオ/40分
His birthmark 中村樹里/8ミリ/5分
むちなむちつじょ 田中沙絵/ビデオ/5分
花は知る 山田智子/ビデオ/10分
夜中の三時 野上寿綿実/ビデオ/6分


Bプログラム
ノマ 山崎大輔/8ミリ/3分
出会わぬ話 吉本幸記/ビデオ/20分
一日四季ツアー 柴崎萌/ビデオ/3分
植竹直人/ビデオ/10分
by train 山田和久/ビデオ/15分
寝息のメロディ 中島踏子/8ミリ/3分
孤島の歌 栗田紅/ビデオ/20分
奇体服 長谷川英佑/ビデオ/14分

Cプログラム
ボンと私 池浦由起子/ビデオ/20分
萩原 下江隆太/8ミリ/12分
セツナ 塩出太志/ビデオ/15分
映像洪水 北野裕希/ビデオ/8分
やがて、去り行く 笠井健郎/ビデオ/15分
亀山直幸/8ミリ/3分
メッセージ 岡崎理子/ビデオ/8分
四角い眼 田辺泰大/ビデオ/10分

Dプログラム
Femme Homme 宮越泰子/ビデオ/5分
sight 渡辺市太郎/ビデオ/10分
世界 冨田裕子/ビデオ/15分
幸せな記憶 後藤天/ビデオ/10分
少年の夢が叶った365日「−死天麗羅ー」 今井嘉江/8ミリ/8分
Rules 難波阿丹/ビデオ/30分
ウミガメ 橋本樹/8ミリ/8分

Eプログラム
SONG LINE 中山和俊/8ミリ/30分
lose, lost, lost 堀宏行/ビデオ/15分
ERR 堀宏行/ビデオ/15分
弓状筋肉の収縮状態における構造的並列 野村美奈子/ビデオ/25分

Fプログラム
Carry あるが亮/ビデオ/20分
消さない傷、消えない傷 鳥山敦/ビデオ/10分
思考日膜〜呼吸するひと 戸村由紀子/ビデオ/20分
罪と罰 倉住豊和/8ミリ/7分
トグロ 入江美貴/8ミリ/5分
ちくしょうべん 大石勝敏/ビデオ/9分
鬼やんま 大石勝敏/ビデオ/13分

Gプログラム
バッドモーニング!ママ! 今井大輔/ビデオ/3分
今日のすべて 酒井久雄/ビデオ/4分
エンテレケイア 大澤恵美/ビデオ/3分
おふろ 隅田栄子/ビデオ/5分
一瞬の音楽 木場美由紀/ビデオ/1分
家想い 毛利樹/ビデオ/5分
i 渥美佑一/ビデオ/3分
榎本洋子/ビデオ/5分
七番目の男 米村みゆき/ビデオ/2分
やあ! 高島英男/ビデオ/5分
Co-Co 安達倫子/ビデオ/3分
オテウトのふゆ 深堀美和/ビデオ/3分
空とぶ玩具 井上智文/ビデオ/5分
かいたいしつ 熊谷護/ビデオ/4分
グラグランド 加藤智菜/ビデオ/1分
Mr.ボウルの不幸と奇妙のABC 山本紋子/ビデオ/3分
お前 違う 光安由紀/ビデオ/2分
NOKTA 岡本理絵/ビデオ/1分
ボタイ 梅村典子/ビデオ/3分
ニンプ 吉田可奈/ビデオ/2分
風ノ舞ヒ 久保田麻衣子/ビデオ/7分
ある日 野田美波子/ビデオ/5分

1:00 3:00 5:00 7:00
3月15日(水)
3月16日(木)
3月17日(金)
3月18日(   D  
3月19日(


<受付>
当日900円/会員600円(入替なし)

◆ 詳細はIFのcinema theque








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